自宅の塗装工事を検討しているけれど、初めての事で何がなにやら分からない…チラシやホームページを見ても、その価格が適正なのかもよく分からない…などとお悩みではありませんか?
塗装工事はその専門性から、一般の消費者には分かりにくく、業者に全て任せざるを得ないという一面があります。
しかし、それゆえに手抜き工事をされても判断出来ないものでもあります。トラブルに巻き込まれないようにするためには、消費者側も自ら知識を身に付け、自己防衛する必要があるのです。
この記事では、塗装工事の概要から、業者へ工事依頼する前に知っておくべき基礎知識をまとめ、ご紹介していきます。これからご自宅のメンテナンスを検討される方は、ぜひ最後まで読んでみて、参考にしてみてください。
1.塗装工事とは
塗装工事とは建物の屋根や外壁を塗り替える工事のことです。「ペンキを塗るだけではないか?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実際は様々な工程を経て行われ、住宅を守るためとても重要なものです。1章では塗装工事の概要と、その必要性について解説していきます。
1-1.なぜ建物には塗装工事が必要なのか
・塗装工事は、建物を「保護」するために必要
「なぜ塗装をしようと思ったのですか」 このような質問を塗装工事を行った方々にお聞きすると、ほとんどの方が「見た目が悪くなったから」「汚れが目立つようになったから」と答えます。もちろん、建物の見た目をキレイにすることは大事です。しかし、塗装工事の本来の目的は、建物を長持ちさせる「保護」をすることにあります。
常に雨や紫外線、空気にさらされている建物の塗装は、グレードにもよりますが、10年前後で劣化し、その防水性能が切れてしまいます。そして、その防水性能が切れたまま放置をすると、建物内に水が浸入して、雨漏りを起こしたり、内部の断熱材や木部などを腐食させてしまい、建物の耐久性に重大な影響を及ぼします。これらの様々な劣化症状から大切なお住まいを守るためのメンテナンスとして、塗装工事を定期的に実施する必要があるのです。
腐食した断熱材
雨漏りによる天井のシミ
2.塗装工事をすべきタイミングを見極める方法
塗装工事は建物を保護するために行う、という目的と必要性についてはご理解頂けたかと思います。ですが、ご自宅が塗装工事を行うべき状態にあるのかどうか、なかなか判断しにくいのではないかと思います。そこで2章では、「このような場合は塗装工事を検討した方が良い」という判断が出来る基準についてお伝えしていきます。
2-1.築年数で見極める
一般的に、塗装工事を行う目安とされているのは、新築から10年を過ぎた頃です。ハウスメーカーや工務店などが住宅を建てる際、屋根や外壁材には塗装がされており、一般的には「アクリル塗料」「ウレタン塗料」などの比較的安価な塗料が使用されています。それらの塗料の耐久年数は短いもので4年、長くても10年程度と言われています。そのため、10年を過ぎた頃には塗装の効果が切れていることが想定されます。新築から10年を過ぎているお家は、塗装工事を検討し始めた方が良いと言えるでしょう。
2-2.劣化症状で見極める
では次に、経年と共に起こりうる具体的な症状についてもお伝えしていきます。ここでお伝えする症状が起きている場合は、一度専門業者に相談して、建物の診断をしてもらうとよいでしょう。
・ヒビ割れ
ヒビ割れは別名でクラックとも言います。クラックにはいくつかのステージがありますが、自力の補修で対処出来るのは、ヒビの幅が0.3mm以下のヘアークラックのみです。(髪の毛のように細いヒビ割れという意味です)このようなヒビ割れが発生すると、そこから水が浸入し、建物内部の構造体や断熱材が腐食する危険性があります。幅が1mm以上の大きいヒビ割れがあった場合、下地や構造部分にも既に劣化が生じている場合があります。
・汚れ(カビ・コケなど)
外壁の藻やカビなどの汚れは、周辺に川などがあり湿気の多い箇所や、日当たりの悪い北面に多く見られます。これらの場所では外壁材に水分が染み込みやすい、建物内部の腐食が発生する危険性があります。
・チョーキング
チョーキングは紫外線や水の影響により発生する塗膜の劣化症状の1つです。壁に触れた際に、手に白い粉が付着していたらそのタイミングです。放置すると、建物の防水性が低下し、水を含むことで家の構造体が腐食する危険性があります。
・塗膜の剥がれ
塗膜の剥がれは、下地と塗料の密着が悪いことが原因で起こりやすい症状です。剥がれた箇所から水が浸入してしまい、家の構造体が腐食する危険性があります。
いかがだったでしょうか。屋根の上はあまり登る機会がありませんし、危険でもありますのでオススメはしませんが、外壁の周りでしたら比較的簡単にチェックが出来るので、ぜひお家の周りを見て回ってみてください。
3.塗装工事の概算費用について
「では、いったい塗装工事はどのくらいの費用が掛かるのか、早く教えて欲しい!」と気になる方も多いと思います。
ですが塗装工事の費用は、使用する塗料の種類・塗布面積・劣化の進行具合と補修内容などによって変動するため、一概にいくらと断定することは難しいのです。下記の金額は一般的な住宅を想定した場合の相場価格ですので、あくまで目安として捉えるようにしてください。
・屋根塗装:約40万円~60万円 一般的な2階建て住宅 塗り面積50~80㎡
・外壁塗装:約80万円~150万円 一般的な2階建て住宅 塗り面積200㎡
かなり幅はありますが、家全体(屋根・外壁)の塗装工事を行うと100万円~200万円程の費用が掛かります。塗装工事の費用内訳は、大きく分けて「塗料代」「工事費」「足場代」となっています。では、費用の内訳についてもう少し見てみましょう。
塗料代相場:屋根
塗料の種類 | 耐久年数 | 費用(1缶あたり) |
---|---|---|
ウレタン | 約3~5年 | 5,000円~20,000円 |
シリコン | 約5~7年 | 15,000円~40,000円 |
フッ素 | 約7~10年 | 40,000円~100,000円 |
無機 | 約10~15年 | 50,000円~120,000円 |
※同じ「シリコン」塗料でも、メーカーやグレードによって価格は変動します。
塗料代相場:外壁
塗料の種類 | 耐久年数 | 費用(1缶あたり) |
---|---|---|
アクリル | 約3~5年 | 5,000円~15,000円 |
ウレタン | 約5~7年 | 5,000円~20,000円 |
シリコン | 約7~10年 | 15,000円~40,000円 |
ピュアアクリル | 約15年~ | 50,000円~70,000円 |
フッ素 | 約15年~ | 40,000円~100,000円 |
無機 | 約15年~ | 50,000円~120,000円 |
工事費用相場
工事項目 | 相場価格 | |
---|---|---|
高圧洗浄 | 100~300円/㎡ | |
養生 | 250~400円/㎡ | |
付帯塗装工事 | 軒天 | 800~1,200円/㎡ |
雨樋 | 800~1,200円/㎡ | |
破風板 | 650~800円/㎡ | |
縁切り | 500円/㎡ | |
諸経費 | 現場管理費 | 1式 30,000~50,000円 |
廃材処理費等 | 1式 10,000~30,000円 |
足場代相場
足場代(㎡単価) | 600~800円/㎡ |
---|---|
飛散防止ネット(㎡単価) | 100~200円/㎡ |
塗装工事の費用については、こちらの記事により詳しい内容が書いてありますので、参考にしてみてください。
4.塗装工事の内容と流れについて
塗装工事の目的や必要性についてはご理解頂けましたでしょうか。では、次に塗装工事の具体的な内容について工程順に解説をしていきます。
4-1.足場工事
地上からでは手が届かない、高所での作業を行うために足場を設置します。これにより塗装職人の作業がスムーズに進められるようになり、安全性も確保することができます。この足場の設置は大体1日かかります。
4-2.養生
次は、高圧洗浄を行う際の水や塗料が周辺に飛散しないように、メッシュシートや飛散防止シートなどで、建物全体の養生を行います。
また、ドアや窓や地面など、塗装をしない部分が塗料で汚れるのを防ぐための養生は、高圧洗浄後、塗装をする前に行います。
4-3.高圧洗浄・下地処理
次に、高圧洗浄という作業を行います。特殊な機械を使って水を高圧で噴射し、建物に付着した汚れやカビ・コケ等を洗い落とします。濡れたままだと塗装をすることが出来ないため、洗浄後に乾燥させます。
次に下地の補修を行います。この下地補修がしっかり出来ているかどうかで、後の塗装の仕上がりに大きく影響してきます。主に行う作業としては、ひび割れの補修、旧塗膜の撤去、サビ処理剤による下地調整などです。
・ひび割れの補修
ひび割れの部分にはシーリング材を充填して埋める補修を行います。
・旧塗膜の撤去
主に鉄部のサビや汚れ、旧塗膜の撤去を行う作業のことをケレンといいます。ヤスリやブラシ、電気工具などを使用して作業します。そうすることで、塗装の密着を良くすることができます。
4-4.下塗り
養生・洗浄・下地処理が終わると、ようやく塗装の工程に入ります。
まず最初は下塗りをします。これは上塗り材との密着性を高めるための工程で、プライマーなどを使用して塗装します。コンクリートや木材など、下地によっては上塗り塗料を吸い込みすぎてしまう場合もあるため、吸い込みを防ぎ、且つ上塗りの密着性を高める役割も果たしてくれます。
金属屋根にサビがある場合は、上述のように下地調整を行った後、防錆効果のあるサビ止めの下塗り材を塗布します。ちなみにサビ止めの塗料には、塗布した上に新たなサビが発生するのを抑える効果はありますが、既にあるサビを補修する効果はありません。そのため、しっかりと下地処理を行ってからサビ止めを塗布する必要があります。
サビ止めを塗布する
4-5.中塗り
下塗りが終わり、しっかりと塗り重ね乾燥時間を確保したら、次に中塗りを行い外壁に色を付けていきます。中塗りは文字通り、下塗りと上塗りの中間に行う工程で、上塗り材を補強する目的で、上塗りと同じ塗料を使用します。この中塗りを行わないと、塗膜の厚み、つまり膜厚が確保出来ず、塗料本来の性能も発揮されなくなります。
4-6.上塗り
中塗りの乾燥が終わったら、最後の仕上げとなる上塗りの工程です。塗りムラをなくして見た目をキレイに整え、決められた塗布量を全て使い切ります。後述しますが、メーカーで定められた塗料の基準塗布量を守らないと、膜厚(塗膜の厚み)が足りず、建物の耐久性に大きく影響してしまいます。そのため、この上塗りは塗膜を形成するためのとても重要な工程です。
4-7.足場解体
全ての塗装の工程が終わったら、最後に足場を解体します。塗装できれいになった箇所に傷を付けたり、周りに落下したりしないよう、最後まで慎重に行っていきます。
5.これをチェックすれば信頼できる塗装業者かどうかが分かる!
さて、ここまで読んで「塗装工事の内容は分かったけど、どういう業者に頼めばいいのか?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。そこで5章では信頼できる塗装業者かどうかを見極めるためのポイントについて解説していきます。工事を頼む前には知っておいて頂きたい内容ですので、ぜひ参考になさってください。
5-1.建物診断がしっかりしているか
・専門知識を持つ担当者による診断
建物の診断は、特に資格がなくても行うことができます。しかし、その診断内容が適正かどうかを判断するための基準として、専門知識が必要な資格を持っているかどうかは重要なポイントです。診断に来た担当者が、「外装劣化診断士」(一般社団法人住宅保全推進協会の認定資格)や「建築士」などの有資格者かどうかを確認してみましょう。間違った診断により、必要のない工事まで行うといったことがないよう、建物診断は有資格者の在籍している会社に依頼するのが無難でしょう。
・屋根や屋根裏を診断をしているか
住まいの劣化状況を正しく知るためには、外壁だけでなく屋根や屋根裏も診断する必要があります。特に屋根は普段見ることが難しく、かつ雨漏りのリスクが高い場所ですので、ここを確認しているかどうかも診断内容が適正かどうかを測る基準となります。
・おうちの隅々まで診断をしているか
小さな劣化でも見落とすと、後々被害が大きくなりかねません。そのため家全体を一周して、屋根や屋根裏まで上がり隅々まで診断をしているか、確認しましょう。お家の大きさにもよりますが、屋根や外壁など全て診断をするとなると、おおよそ1時間は掛かります。
5-2.見積書の金額の根拠が明示されているか
次は見積書を見る際に注意するポイントについてです。項目ごとに、なぜこのような金額になっているのか、という根拠が明示されているかを一つ一つ見ていきましょう。
ポイント①:塗料のメーカー名や商品名が記載されているか
例えば一般的な「シリコン塗料」と言っても、メーカーによって種類・品質・価格まで全てバラバラです。また、上述した塗布量、乾燥時間も違うので、そのカタログを確認するためという意味でも、見積書にはメーカー名と商品名が記載されているかどうかをチェックしましょう。
ポイント②:材料と施工費に分かれているか
「○○工事一式」という表記があったら要注意です。一式では、どういった作業が行われるかが不明瞭だからです。工事後になって、ここは見積に含まれていないからやりません、となってしまっては納得いきませんよね。どのような塗料を使って、どのような施工をするのかどうか、必ず、見積を取った際は確認するようにしましょう。
ポイント③:必要な塗料の量は平米数で計算されているか
後述しますが、塗料はメーカー規定の塗布量を守らないと性能が発揮されません。「坪数」とは床面積のことであり、同じ坪数でも建物の形状によって塗装する屋根外壁の面積は異なるため、塗装面積が「平米」ではなく「坪」で出されていると塗布量の正確な積算ができません。そのため、平米で表記されている見積の方が正確であると言えます。さらに、使用する塗料の缶数も記載されているかチェックをしましょう。
5-3.塗布量は正確に計算されているか
次は塗布量についてです。塗布量とは、「外壁の面積に対する適正な塗料の量」のことです。各メーカーによって塗料ごとに定められており、1㎡に対して、何リットル(グラム)を使用するよう指定されています。この塗布量を守らないと、塗膜、つまり塗装の厚みが十分確保できず、防水やひび割れを防ぐ効果に影響し、建物の劣化を防ぐことが出来なくなってしまいます。この塗布量をしっかり守ってもらうためにも、見積を取った際には、なぜこれだけの量の塗料が必要になるのかという確認をしてみるとよいでしょう。メーカー指定の塗布量と塗料1缶当たりの容量・外壁の面積の関係をしっかりと説明出来るようであれば大丈夫でしょう。
例えば、塗布量が0.4kg/㎡の塗料の場合、1缶の容量が16kgであれば、16÷0.4=40 つまり「40㎡で1缶を使い切りなさい」という意味です。
塗布面積が200㎡の建物に対して、この「40㎡で1缶を使い切りなさい」という塗料を塗る場合には、全部で5缶の塗料が必要になる、ということです。
(※1)塗布面積・・・建物の塗料を塗る必要がある面積のこと ただし、窓やドアなどの塗料を塗らない開口部は除いている
5-4.塗り重ね乾燥時間を考慮しているか
塗料には、各メーカーによって定められた仕様が存在します。塗り重ね乾燥時間とは、塗料を1回塗って、次に塗るまでの時間のことを言います。塗料によって差はありますが、基本的には3~4時間程です。この乾燥時間を守らないで施工をした場合、塗料が持つ性能が著しく低下し、数年で不具合が起きるいわゆる不良施工になる可能性が高くなってしまいます。
この乾燥時間をしっかり確保するためにも、塗装業者に、工事工程について下塗りから中塗り・上塗りまでどのぐらいの時間を見込んでいるか確認しましょう。例えば実際の工程では【下塗り・4時間乾燥・中塗り・4時間乾燥・上塗り】という具合に、乾燥だけでも最低8時間は掛かりますので、塗装をする時間を含めたら1日で終わるということは有りえません。「1日で仕上げます」などといった業者は、塗り重ね乾燥時間を考慮していない可能性が高く、信頼できる業者とは言い難いので注意が必要です。
5-5.報告書を作成してくれているか
診断に来た業者は、仕事や用事で家にいなかった家族が、後で見ても分かりやすいような報告書を作ってくれているでしょうか。口頭のみの説明で専門用語ばかり話されると理解が難しく、本当に塗装工事が必要なのかどうかを判断しにくくなってしまいます。報告書には写真があることは当然ですが、写真だと一部分を切り取っただけで分かりにいこともあるので、診断結果を分かりやすく解説したビデオが一緒にあると、なお良いでしょう。
5-6.保証やアフターフォローが充実しているか
工事が終わった後も長く安心して住み続けるためには、保証やアフターフォローがあるかどうかが重要です。塗装工事は万が一不備があってもすぐには分からず、塗膜の剥がれや色あせなどの不具合が発覚するのは終わった後しばらく経ってからです。そういった場合に補修の工事を行ってもらえるよう、口約束ではなく、必ず保証書が発行されるかを確認しておきましょう。
・保証
外壁塗装の保証には、一般的に製品保証と工事保証という2つの保証があります。
製品保証・・・塗料メーカーが工事で使用した塗料に対して出している保証です。塗料製品に瑕疵があった場合、塗料メーカーが塗料代を上限として保証をする。「製品保証」はあくまで塗料そのものに対しての保証であるため、工事内容に対しては保証されません。
工事保証・・・保証期間中に塗装工事に瑕疵があった場合、施工店が工事に対して行う保証です。施工店や工事内容によって保証年数や保証範囲が異なります。
・アフターフォロー
保証だけではなく、工事後に定期的に点検をしてくれるかどうかも重要なポイントです。基本的には無料で行ってくれる会社が多いです。工事後に1年、3年、5年、と定期的に間隔を空けて行ってくれる会社であれば、次にメンテナンスを行うまで安心して付き合うことができるでしょう。
まとめ
塗装工事の目的や必要性、工程など全体について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。塗装工事は決して安い買い物ではありません。
約10年に1度するかしないかという重要なものです。失敗のない工事になるよう、しっかりと内容を理解したうえで、慎重に判断をなさってください。