近年、技術に進化に伴って合成樹脂を原料とした塗料が主流となりました。さまざまな機能を持ち、高い耐久性を持った塗料も次々と生まれています。
しかし、その反面で化学物質過敏症やシックハウス症候群などの化学物質を要因とした健康被害も問題になっています。
そのような不安から、お家で使う塗料は天然の素材を原料とする自然塗料にしたいと思っている方も多いのではないでしょうか?
でも、自然塗料にも種類がたくさんあって、どれがいいのかわからない方もいらっしゃると思います。
実は、日本においては自然塗料というものに明確な定義はありません。海外では自然塗料と言えないものでも日本では自然塗料として販売されているものもあります。
また、中にはシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドを発生させるものもありますし、天然の原料でもアレルギーが出る人はいますから、必ずしも自然塗料=安全というわけではないのです。
ですから、自然塗料がどういうものかをしっかり理解した上で選択することが大切です。
この記事では、自然塗料についてメリットや注意すべき点、各社の特徴などを紹介します。
自然塗料は自然界にある成分を主原料とした塗料
自然塗料は原料に石油や合成顔料を含まない天然の素材を主原料とした塗料です。
古くから柿渋などが用いられていましたが、亜麻仁油、白ロウ、桐油、カルナバロウ、コパル、蜜ロウ、ラベンダーオイルなども原料として使われます。
自然塗料は人や環境に優しい、安全性が高いというようなコンセプトで多くのメーカーから発売されています。
日本で販売されている自然塗料はドイツのメーカー製のものが大多数を占めていますが、国内メーカーの一部も製造しています。
海外では自然塗料と名乗るには明確な基準がありますが、日本においては自然塗料の基準となる法令などはありません。
自然塗料といってもホルムアルデヒドやVOCを発生させるものもあるため、一概に安全と言えない点には注意が必要です。
自然塗料の種類
自然塗料は木目を活かす塗装に用いられます。種類は大きく分けると木の表面に浸透させるオイルタイプ、コーティングに使用されるワックスタイプ、両方の機能を持ったオイルワックスに分けられます。
オイル系
木の内部に浸透して表面に塗膜を作らないため、木材本来の美しい木目の質感が浮かび上がり、しっとりとした仕上がりになる。
ワックス系
木の表面をコーティングして汚れから守る。無塗装のような自然な仕上がりになる。
オイルワックス系
オイルとワックスの機能を兼ね備えたもの。
自然塗料の優れている点
自然塗料の優れている点といえば、木目を活かしたぬくもりのある仕上がり、手触り、時間が経つ毎に深まってゆく経年変化の色合いです。
主原料が天然の成分であることによる安全性の高さ、人によってはアレルギーを抑えることができるのもメリットです。
対して、注意すべき点としては合成塗料よりも若干高価であること、施工に時間がかかること、化学塗料よりも耐久性が劣ることです。
また、自然塗料といえどもホルムアルデヒドは発生するので、絶対に安全とは言いきれないということです。
優れている点 | 注意すべき点 |
---|---|
・木目を活かしたぬくもりのある仕上がり質感 ・経年変化を楽しめる ・主原料が天然成分なので安全性が高い ・環境に与える負荷が低い | ・化学塗料よりも高価 ・乾燥時間が長い ・化学塗料よりも耐候性が低い ・絶対に安全とは言えない |
自然塗料と化学系塗料の比較
自然塗料を検討する時に化学塗料と比べて何が優れていて、何が劣っているのかを知っておくと、塗料選定の判断基準となります。
それぞれに違った特徴があるため、何を優先したいかによって自然塗料にするのか化学塗料にするのか判断すると良いでしょう。
一般的な自然塗料を化学塗料と比較すると、まず耐候性が低いということを理解しておいてください。
したがって、日常的に水拭きやワックスクリーナーをかける、2、3年で塗り替えるなど、化学塗料よりもこまめにメンテナンスが必要となります。
価格は化学塗料よりも比較的高価です。また、自然塗料は乾燥に時間がかります。
それよって、施工期間も伸びるため、業者に依頼する場合は工期が伸びる分、工費も高くなる場合があります。
化学塗料よりも優れている点としては、主原料が天然の成分であることによる安全性の高さ、自然の風合いに仕上がりになることです。
自然塗料 | 化学塗料 | |
---|---|---|
耐候性 | ×低い | ◯高い |
価格 | ×高い | ◯低い |
施工時間 | ×長い | ◯短い |
安全性 | ◯高い | ×低い |
自然な風合い | ◯高い | ×低い |
※一般的な比較であり、性能は各製品によって異なります。
日本では自然塗料の定義は曖昧
日本では自然塗料に明確な定義はありませんが、自然塗料の先進国であるドイツでは明確に自然塗料の定義がなされています。
ドイツでは溶剤に石油精製品であるイソパラフィンやミネラルスピリットなどを含む塗料は自然塗料と名乗ることはできず、自然系塗料に分類されます。
日本ではイソパラフィンに法的拘束力はありませんので、イソパラフィンが含まれている塗料でも自然塗料として販売されています。
当記事で紹介する塗料にもドイツの基準では自然系塗料に該当するものもありますが、上記の理由から自然塗料と記載しています。
イソパラフィンは毒性が低く、臭気も低いため、化粧品などにも使用されています。
ですから、一概にイソパラフィンが含まれているから安全でないというわけではありません。
日本では自然塗料の定義は不明確であり、メーカーが自然塗料として販売するものには天然成分以外の成分も含まれているものもあるということがポイントです。
自然塗料の安全性については次の節で触れたいと思います。
自然塗料でもホルムアルデヒドは発生する
自然塗料の製造メーカーのPRにより自然塗料は安全であるというイメージが先行していますが、天然の素材が必ずしも万人に安全とは限りません。
たとえ、天然の成分であっても人体にアレルギー反応を誘発するものもあります。
また、自然塗料であっても塗装後に塗料が乾燥し、硬化していく段階でホルムアルデヒドが発生します。
出典: 「亜麻仁油からの揮発性有機化合物放散」 田中・中井・ディアス(2009.5)
出典:「自然塗料の発生化学物質の実態解明に関する研究」野崎・山本・山下・杉・田中(2007)
2つの異なる論文によると、時間の経過とともにホルムアルデヒドの放散量は減少していますが、160時間を経過した辺りから再び放散量が増加するという結果が報告されています。
ホルムアルデヒド対策の為に自然塗料を検討しているのに、自然塗料からホルムアルデヒドが出るなんて・・・と思われたのではないでしょうか。
塗料はホルムアルデヒド放散量によって区分がなされています。星が多いほど、ホルムアルデヒドの放散量が少ないということです。
等 級 区 分 | ホルムアルデヒド放散速度 | 内装仕上げの面積制限 |
---|---|---|
規制対象外(F☆☆☆☆) | 5μg/㎡h 以下 | 使用面積制限なし |
第3種ホルムアルデヒド 発散建築材料 (F☆☆☆) | 5μg/㎡h 超~ 20μg/㎡h以下 | 使用面積を制限 |
第2種ホルムアルデヒド 発散建築材料 (F☆☆) | 20μg/㎡h 超~ 120μg/㎡h以下 | 使用面積を制限 |
※F☆☆☆☆とは
改正建築基準法の施行により、建材のホルムアルデヒド放散の等級表示がされることとなりました。「F☆☆☆☆」マークの「F」はホルムアルデヒド、「☆」の数が多いほどより放散が少ないことを意味しており、その中で最も少ないものが「F☆☆☆☆」です。建材(塗料も含む)はホルムアルデヒドの放散量により、下記のようにFスターで分類されています。
F☆☆☆☆:使用面積制限なし
F☆☆☆ :使用面積制限有り
F☆☆ :使用面積制限有り(F☆☆☆より使用面積は少なくなる)
マーク表示なし:使用禁止
東京都生活文化局消費生活部生活安全課のレポートによると、F☆☆☆☆の表記がなされていた自然塗料の製品に対して、ホルムアルデヒド放散量の試験を実施したところ、実際にはF☆☆に相当するものがあったという報告があります。「F☆☆☆☆の表記は塗装仕様書に規定されていた塗布量での試験結果で、商品の表示内容と異なっており、消費者に正確で十分な情報が提供されていなかった」と報告されています。
出典:「いわゆる自然塗料」 平成19年3月 東京都生活文化局消費生活部生活安全課
このように自然塗料というだけでは、必ずしも安全とは言えない点や、安全性の情報提供が十分ではなく、安全性を誇張している製品もあるという点も留意する必要があります。
また、亜麻仁油等を主成分とする植物油は、空気中の酸素と反応するため、塗装で使用したウエスや布・タオルが自然発火することがあり、事故も起きています。
何が安全かは人の体質によって異なります。本当に安全を求めるのであれば、天然成分だからという理由で判断するのではなく、実際に製品の匂いを嗅いでみたり、サンプルの部材でアレルギーが出ないかを確認してから選択することが大切です。
ポイント
・自然塗料といえども万人に安全とは限らない
・安全性の情報提供が十分でない、安全性を誇張した製品も存在する
・自然発火の恐れがあるため、塗装時や拭き取りに使用したウエスや布は、使用後直ちに水つける
・何が安全かは人によって異なるため、実際の製品を嗅いでみたり、アレルギーテストをやってから選択する
次の記事では自然塗料の各社製品と選び方を詳しく解説しています。ぜひ、ご覧ください。