外壁塗装の色選びのクレームは年々増加しています。100万円以上の予算をかけ、良い塗料や材料を選びついに工事開始、二週間後には新築同様の我が家に生まれ変わるはずが、塗り始めて一時間で「なんか思っていた色と違う・・・」という話もあります。実は色選びは究極の好き嫌いであり、自分が選んだはずの色と、塗っている色が違ったという話は珍しいことではありません。では何故このような色選びのトラブルが起こるのでしょうか?この色選びにおけるトラブルを回避するにはどうすればよいのでしょうか?
本記事では、数多くの建物のカラー監修をされているカラーコンサルタントに色選びで失敗しないコツや、様々な色選びの疑問を通して、色選びの成功に近づくアドバイスを伺いました。これから色選びをされる方、塗装を検討している方、以前失敗して今度こそは成功させたい方は必見です。ぜひご覧ください。
カラーコンサルタント 長 和洋(おさ かずひろ)1961年生まれ
美術大学卒業後、着物のデザイン、染色や広告代理店グラフィックデザイン、中学校や高校教員などの経験を経て2005年にイルドクルールに入社、以降カラーコンサルタントとして15年以上活動を行なう。色に関してはアナログの時代からデジタルへ移行での黎明期に数少ない先駆者として、デジタルでの色の表現方法、ソフトウェアの普及、技術指導などで活躍。現在は全国での色彩における問題解決や、色彩計画、景観色彩、色彩検定などの教育などを中心に幅広く活躍している。
Q1.なぜ塗装をする際、色選びに迷うのでしょうか?
色選びに迷われる方は多くいらっしゃいますが、多くは外やご近所からどう見られたいか?という観点を気にされる方が多いです。そしてどう見られるかを気にされる方は失敗も多いです。それを回避するには「自分や家族がどう有りたいのか」を大事にすると良いです。外からどう見られたいかで選ぶ色と、自分がどう有りたいかで選ぶ色は結構違いがでます。
洋服や車と違って、建物は「スパンの長さ」が特徴で、すぐに色の変更ができないからこそ、慎重に選ぶべきです。直感だけで選んでしまい、失敗された方を多く見てきました。早い方は塗り始めて一時間で「失敗した」とおっしゃられる方もいますよ。
「こう見られたい」という視点で色を考えると少し背伸びをしてしまいます。例えば「もっとおしゃれに」と思ってしまうのですね。それがトラブルに繋がるケースが実際にありました。そのために意識調査を行います。通常色を決める際には「家族像、施主の方がどう暮らして行きたいか」を家族の中で言葉に落としていきます。
①どのような家にしたいか単語をたくさん書き出す
②絞り込み
③さらに絞り込み
④コンセプトになる
例えば50代手前のご夫婦と子供が小学生二人「生き生きとした笑顔あふれる、温かい家庭」「いつも笑いが溢れている家庭」にしていきたい場合はどのようになるのでしょうか?
「温かい」という言葉が入っているので、ベースはウォームの色合いがいいでしょう。その中に「生き生き」という活発さを表す言葉が入っているのでそれをアクセントとして表現すると良いと思います。単なる穏やかな家庭ではなくてその中にフレキシブルさが入ります。そうなってくるとその中に盛り込む色はアクセントに少し遊びのある色、ポジティブな色を入れて表現しても良いと思います。ウォームの色合いの中で選べば失敗は少ないと思います。
「生き生き」という言葉を表現する場合は色のコントラストで選ぶのですが、丸くまとめるのか、尖らせてあげるのかの度合いで変わってきます。尖らせた大きく違う色味を二色使う場合はベースの色を最低でも50%下回らないようにしてください。ベストはベースの色が70%程度あることです。
逆にクールを選ぶパターンの場合は「静かに」「穏やか、静寂」「都会的な」「センス」このようなキーワードの場合でしょう。
ウォーム、クールの色味分けの表に関してはQ3をご覧ください。
Q2.「思っていた色と違った」という失敗を回避するにはどのようにしたら良いのでしょうか。
今この問題は非常に増えています。ここでの問題は「シミュレーションソフト」が大きく関係してきます。シミュレーションで見ている色が本来の色と違うことも多いです。微差で迷われている場合は特に気をつけてください。そのシミュレーションを元に小さな面積の色見本で確認して、違う色の認識のままOKを出すケースが増えています。もちろん工期の関係はありますが、急がれている場合は要注意です。
立ち合いを行なう場合は、一定条件だけで見ると失敗します。晴れた日と曇った日、雨の日を見比べていないケース、また、太陽光で見え方は大きく変わります。せめて日なたと日陰の状態、日が当たっているときの見え方、日が当たっていないときの見え方は最低限必ず抑えておきましょう。
日が当たっているときの確認は11:00から14:00までの時間に確認しましょう。あとは色の面積の大きさ、大きければ大きいほうが良いです。
Q3.興味のある色と合わせて失敗しない色味を教えてください
クールカラー・ウォームカラーについて
色味はクールカラーとウォームカラーに分類されます。同じグループの色を選ぶことにより色彩の調和がとれたまとまりのあるカラーコーディネートができます。
上記をウォーム、クールに分類しましたが、新たな色を「ウォーム」「クール」に分類するのは一般の方では至難の業です。同じ赤でもウォームとクールに分かれますし、その見分け方は非常に難しく、色の計測も訓練も必要です。専門家に相談するのがベストでしょう。施主がご自身で判断されるのは非常に難しいと思います。
一般の方が一番指標に置きやすいのはこの色は日なたにある色か、日陰にある色かでイメージしてみると良いと思います。短波調成分多いか少ないかも一つの観点になるので。ただし濃い色はご自身が判断されるのは難しいでしょう。
Q4.ツートンカラーの色選びで失敗しない方法を教えてください。
ツートンカラーにする場合その使う2色が離れている色味を使う場合と近い色を使うパターンがあると思います。コントラストがあり目立ったほうが良いのか、落ち着かせた方が良いのか。その施主の思いにより合う色を選ぶのが良いかと思います。先程申し上げた施主やご家族が「どうありたいか」というところに繋がります。
元気で笑顔あふれる家庭なのであればコントラストがあったほうが良いと思いますし、お嫁さんと二人で老後を穏やかに暮らしたいということであればコントラストは狭めた方が良い。色は刺激です。刺激を強くもたらせた方が良いのか、刺激を与えない方が良いのかのコントロールになります。色相で考える明暗で考えたりもできます。
そのコントラストを考えるだけでも多少失敗は減るのでは無いでしょうか。サンプルだけを見て決めることや、流行だけで決めるのはオススメできません。一番大事などう有りたいのかが抜けているので。住人不在の状態になってしまいます。
Q5.ツートンカラーで色が決まった後はどのように塗り分けたらよいですか?
色が決まったあとはアソートカラーをどの場所に使うのか、どれくらいの面積を使うのか決定することですね。平屋ならそんなに悩むことは無いのですが、平屋でも塗り分けている家も多くあります。コーナーなどが多いです。
二階建ての場合はコーナー、横であれば1階と2階、建物の形状、凹凸やバルコニーがあるおうちは縦のラインを引きやすいです。マンション、アパート、コーポはバルコニーなども多いので、そこに合わせて塗り分けるケースは多いです。塗り分けのキーワードは出っ張りに合わせることです。
同じ面積くらいで1階と2階で塗り分けた場合、セオリーで考えると重たい色を下におくことで安定感が出ます。特に昨今は地震が多かったりするため、建物に安定感や安心感を求める方は多いです。逆に下に軽い色味を持ってきた場合は楽しさとか面白みはでますが安定感からは離れます。飽きが来るのが早いかもしれません。より失敗したくないと思われる方は重たい色を下に持ってくることをおすすめします。
①1階と2階で塗り替えた場合の例
②建物の形状で塗り分けた例
③縦の塗り分け例
Q6.流行の色を教えてください
黒などの濃い色が使われる物件が増えました。景気が悪くなると人間は黒いもの、頑丈な色や強い色に惹かれる傾向が統計上あります。デザイン性もあるでしょうが、社会的な背景からだと思われます。消費社会が成熟してきたのと最近は景観に対する配慮が社会的に言われているので彩度が不要に高い派手な色味は減ってきたと思います。また濃い色味は失敗しやすい色の一つです。少しでもそのリスクを防ぐとしたら、「植栽の使い方」でしょうか。
外壁が見える面積を植栽で調整するというところです。少し木を植えるだけも全然違って見えます。
Q7.庭や植栽など、緑に合う色に合う外壁の色味を教えて下さい。
考え方が2つあります。緑の中で際立たせたいのか、融合させたいのかによります。この質問をされる方はどちらかというと、まとめたい傾向の方が多いと思います。
まとめたい方は一般的な色相環をもとに色相が近いところの色を選ぶと良いでしょう。赤みが強い色は際立ちますので、黄色みの入ったベージュや、青みであっても薄めの彩度の高くない青などは合います。
例:パステルアクアやペリウィンクルブルーなど(アステックペイント色見本より)
同じ植物であっても広葉樹なのか針葉樹によって違ってきます。
広葉樹(桜やケヤキ、ブナなど)
針葉樹(松や杉など)
広葉樹は黄色系で針葉樹は青系なので合う色味も少し変わって来るでしょう。例えば松や杉などの針葉樹は青系も合います。北海道は針葉樹が多く青系が使われることが多いですね。
都市部に行くと景観がクールなので温かい色を選ばれている方も多いです。基本的にはアースカラーだと間違いはないです。木の幹の色、土の色、石の色、砂の色、元々地球上にある色味なので、絶対に失敗しない色を選びたい方にはおすすめします。
ただ、土の色だけは地域によって変わってきます。赤土の多いところに鹿児島に多いシラスの色を入れても合いませんので、実際にその土地の土の色を見られると良いでしょう。
Q8.真っ白な家(純白)のデメリットは何でしょうか?
キレイに保つことができれば、純白色以上に美しい色はないと思います。しかし反対にキレイに保たないと汚れが目立ちます。これは使う塗料の耐久性の問題があると思います。しっかりとした耐久性がある塗料を使わないとみすぼらしくなってしまいます。雨筋などが目立ってしまうと煤けた印象になってしまいます。メンテナンスをしっかりと行ってきれいな状態を保たないとすべての汚れが見える色です。純白以外においても明度が高い色は汚れが目立ってしまいます。
汚れが目立つ色
例:トゥルーホワイト(純白)ホワイトリリィやクールホワイト、セラドングリーン(アステックペイント色見本より)
汚れを気にされる方はベージュ系だと汚れは目立ちにくく安心でしょう。
汚れが目立ちにくい色
例:フォギーオレンジ、ペールビスケット、サンダルウッド、スムースクリーム、ミッドビスケット、ライトラテ(アステックペイント色見本より)
実は真っ白の反対の真っ黒に関しても、また雨筋や汚れが目立ち、メンテナンスが必要です。なので暗い家にしたい場合でも、濃いブラウンなどにすると良いでしょう。
Q9.近い色味の二色で迷ったときの解決法を教えてください。
最終判断を誰が決めるかが重要です。ご家族の中で一番家に長くいらっしゃる方が決めると良いと思います。その方がいいなと思っている方を採用すると良いでしょう。それ以外は先程申し上げた面積を広げてみるなどして検討されると良いと思います。
Q10.地域で使われる色の傾向を教えてください
北海道
冬季の景観や、住居への滞在時間等々の関係で、クールな存在感のある色が人気を集め、アクセントやアソートカラーに選ばれます。
また、地域色とも言える針葉樹に近い色やラベンダーカラーも新しい建築では選ばれます。
東北(青森/岩手/宮城/秋田/山形/福島)
控えめな色彩が好まれる東北では、穏やかでソフトな印象の色が周囲の景観とマッチします。
また日照時間が少なく暗い冬季の関係から、くすんだ桜色に近いベビーピンクや、ローズグレイが上位に入るのも大きな特徴です。
関東・甲信越 (東京/神奈川/埼玉/千葉/茨城/栃木/群馬/山梨/新潟/長野)
住宅の密集度も相まって、特に「心地よい色」「スマートな色」に焦点を合わせた、洗練された色が選ばれるエリアです。
その中で信越では、豊かな自然との調和もテーマになり、自然なアースカラーが選ばれます。
東海・北陸・近畿 (富山/石川/福井/岐阜/静岡/愛知/三重/滋賀/京都/大阪/兵庫/奈良/和歌山)
東海・近畿の主に温暖なエリアでは、親しみやすく温かみのある暖色系の色が好まれ、それらの色は都市部だけでなく郊外や住宅地でも景観に調和します。
一方、北陸から近畿内陸ではややシックな色合いが多くを占めます。
中国・四国 (鳥取/島根/岡山/広島/山口/徳島/香川/愛媛/高知)
日本海側と瀬戸内/太平洋側で傾向は変化しますが、土壌の色彩や樹木の色彩との調和からも、暖色の穏やかな色調が支持を集めます。たとえば、自然志向のモカなどが代表的です。
また、重厚感より軽快感を与える色が人気であるのも特徴です。
九州 (福岡/佐賀/長崎/熊本/大分/宮崎/鹿児島)
高温多湿であるため、重厚な色より明快な色彩が好まれる風土で、景観も独特の明るさを持っています。
照葉樹や広葉樹が多く、濁りの少ない暖色系の色みは、どのエリアであっても景観と調和します。
沖縄
年間を通じて温暖であるのに加え、夏場の高温から濁りのないクリアな明るい色が人気を集め、景観とも調和します。
アイシーピンク、オパールグリーンなどは、風土的にもよくマッチし、使用場所を選ばない心地よい色です。
上記は各エリアにて人気のある5色です。しかし実際に使われている色味はエリアによっても変わりますので市単位でも大きく変わることがあります。
実際に参考とする場合は近くを地域の色を見て回ることをオススメします。半径200メートルを歩いて見るだけでも色々と感じることができると思います。ブラウン系が多い、和風の家が多い、黒の屋根が多いなど感じることができるでしょう。
さいごに
家の外壁や屋根の塗装工事を行なう際、皆さま間違いの無い色選びを求めていると思います。必須の条件は失敗しない、後悔しないために一番強く言えるのは人任せにしないということです。「業者さんが良いと言ったから」「オススメと言った色味で決めました」など人任せにすると必ずと言っていいほどクレームになってしまいます。
色選びは究極の好き嫌いになってしまいますので、助言は施工会社や周囲からしっかりと聞きながら、施主の方が主体的になって決めてぜひ素晴らしい色に出会ってほしいと思います。皆さまの色選びの大成功をお祈りしています。