塗装業者から低汚染塗料を提案されているけど、そもそも低汚染塗料とは何なのか?低汚染塗料はなぜ、汚れにくいのか?と疑問をお持ちではないでしょうか?
低汚染塗料とは、その名の通り、汚れにくい、また汚れが付着しても雨によって洗い流す機能を持った塗料です。近年、技術の進歩により、塗料メーカー各社が様々な低汚染塗料を開発しています。
低汚染塗料は汚れを自ら綺麗にする、セルフクリーニング機能を有しており、美観が長く続くためメンテナンス性が高い塗料です。しかし、実際汚れにくい、雨が汚れを流すと言われても、なぜ汚れないのかピンと来ない方も多いのではないでしょうか。
そんな方のために、今回は低汚染塗料がなぜ汚れが付きにくいのか、そのメカニズムの解説に加えて、実際に低汚染塗料を汚す実験を行いました。
低汚染塗料をご検討されている方はぜひ参考にされてみてください。
1.低汚染塗料とは?
そもそも低汚染塗料とはどんな塗料なのか。また、なぜ汚れにくいのか?について解説いたします。
1-1.低汚染塗料とは汚れが付着しにくい塗料
低汚染塗料はその名の通り、汚れにくく、美観を保持する事に特化した塗料です。低汚染性によって、汚れを防ぐだけでなく、カビや藻などの繁殖も抑制します。
1-2.なぜ汚れにくい?低汚染塗料のメカニズム
それでは、低汚染塗料はなぜ汚れにくいのか。そのメカニズムについて解説いたします。
低汚染塗料のメカニズムで重要なポイントが「親水性」です。親水性とは、水と馴染みやすい性質のことで、この親水性を持つことが汚れを付きにくくしているのです。
水となじみやすいとなぜ汚れが付きにくいのでしょうか。実は、排ガスなどの外壁に付く汚れの成分は親油性の汚れであるため、水と油が互いに弾き合うように、親水性のものと油分の汚れがなじみにくいという性質があるからなのです。
また、このような親水性の性質を持つ親水剤を緻密に配置することで、汚れが付着しにくい塗膜を作っているのです。さらに、親水性に富んでいるため、雨が降ると塗膜と雨水がなじみ、汚れを洗い流します。(セルフクリーニング効果)
1-3.低汚染塗料のメリット
低汚染塗料の一番大きなメリットとしては、汚れが付きにくいため、長期間建物の美観を保つことができるということです。汚れにくいということは、洗浄などのメンテナンスの回数も少なくて済みます。
藻やカビの繁殖を抑制する
日当たりが悪く、湿度の高い箇所では、ほこりが付着し、水分を吸うことで湿っているために藻やカビ、苔などが発生しやすくなります。低汚染塗料にはほこりが付着しにくいため、藻やカビなどの微生物の繁殖を抑える機能があります。
雨筋になりにくい
雨が降ると雨の流れ道ができ、流れてきた汚れがたまり、筋になってしまいます。低汚染塗料は雨で汚れを浮かして洗い流すため、雨筋になりにくい性質を持っています。
汚れにくいためメンテナンスコストが抑えられる
低汚染塗料で塗装した外壁は汚れにくいため、洗浄や塗り替えの頻度が減ることにより、メンテナンスのコストが抑えられます。
付加機能の向上も期待できる
汚れにくいことによって、遮熱塗料などの付加機能を向上することも可能です。アステックペイント社の超低汚染リファインは超低汚染塗料に遮熱機能を持たせることで、汚れによる熱吸収を防ぎ、遮熱効果を長期間持続させます。
一般の遮熱塗料は経年とともに付着した汚れが熱を吸収するため、徐々に遮熱効果が低下してしまいます。 超低汚染リファインシリーズは、塗膜表面が汚れにくい超低汚染性を持つ塗料であるため、汚れによる熱の吸収を防ぎ、長期間経過しても、一般の遮熱塗料に比べ、遮熱性能を保持し続けます。
アステックペイント社ホームページより引用
1-4.低汚染塗料の種類
超低汚染リファイン1000Si-IR(株式会社アステックペイント)
超低汚染リファインは美観保持機能に特化した低汚染塗料です。低汚染機能に加えて遮熱機能を持たせた塗料です。超低汚染リファインシリーズは「塗膜表層コーティング技術」により、塗膜の密度が高く親水性に富んでおり、汚れの付着を防ぎます。一般の遮熱塗料は付着した汚れが熱を吸収するため、次第に遮熱効果が低下しますが、超低汚染リファインは超低汚染性により汚れが付着しにくいことにより、遮熱効果を長期間保ち続けることができます。
クリーンマイルドSTシリーズ(エスケー化研株式会社)
エスケー化研社のクリーンマイルドSTシリーズは、独自のセラミック複合技術(低帯電性・高い架橋密度・親水性)により超低汚染性を実現。汚れが付きにくい低帯電性、汚れが定着しにくい高い架橋密度、汚れが除去されやすい親水性のトリプル効果で、長期にわたって対象物へ低汚染性を発揮します。クリーンマイルドSTシリーズには樹脂が異なるふっ素、シリコン、ウレタン、中塗り材の種類があります。
水性クリーンタイトSi(エスケー化研株式会社)
従来の低汚染塗料は二液タイプ(現場で2つの種類の塗料を混ぜ合わせる必要がある)が主流ですが、この水性クリーンタイトSiは新しいセラミック複合化技術を用いることで一液化に成功した低汚染塗料です。一液タイプでありながら、二液タイプに匹敵する低汚染機能を有しています。
ファインシリコンフレッシュ(日本ペイント株式会社)
日本ペイント社のファインシリコンフレッシュはシリコン樹脂の低汚染塗料です。シロキサン結合によって高い耐候性を発揮します。塗装時の発泡が少なく、塗りやすく、素早く乾燥するため冬場の施工でも安心です。セラミック成分による親水化技術で優れた低汚染性を実現しています。
アレスアクアシリコンACⅡ(関西ペイント株式会社)
関西ペイントが開発した水性反応硬化技術を進化させたマイクロ反応硬化技術を採用したことにより、水性塗料の常識を越えた低汚染性を発揮し、高い光沢仕上げを実現した塗料です。マイクロ反応技術によって、塗膜表面が緻密でタック(ベタつき)がなくなり、低汚染塗膜を実現します。
2.【実験】実際に低汚染塗料を汚してみた
超低汚染塗料について基本的な内容が理解できたところで、実際の効果はどうなのか?気になる方もいらっしゃると思います。そこで、今回は記事内でも紹介したアステックペイント社の超低汚染リファインを使用して、汚染実験を行ってみました。
2-1.カーボンブラック塗布実験
カーボンブラックと呼ばれる、外気の汚れの成分を再現したものを使用して低汚染塗料を塗った塗膜板を汚します。比較のために一般的なシリコン塗料も汚してみます。
ご覧のように、拭き取った際に一般のシリコン塗料には汚れが付着しているのに比べて、低汚染塗料には汚れが付着していません。
このように塗膜が汚れにくい理由は「塗膜表層コーティング技術」によるものです。
塗膜表層コーティング技術によって、汚れにくい理由としては主に下記の2点があります。
表面の密度が高い
汚れの成分よりも表面の密度が高いために、汚れが付きにくくなります。
親水性が高い
親水性が高いので、塗膜と水(雨水)が馴染みやすく、汚れが浮き上がり、汚れを洗い流します。
このように、低汚染塗料は汚れが付きにくく、かつ汚れが付いてしまっても親水性によって洗い流す特徴を持っています。
2-2.カーボンブラック噴射実験
粉末のカーボンブラックを噴射して、水性シリコン塗料・水性フッ素塗料と比較してどれほど付着するかを実験しました。
塗膜が静電気を帯びると汚れが付着しやすくなりますが、低汚染塗料の特徴である塗膜表面の親水性による「低帯電性」によって、他の塗料より汚れが付着していないことがわかります。
水の噴霧時点で水滴が汚れと共に流れ落ちていることがわかります。このように雨筋が発生しにくいということがわかります。
2-3.暴露試験
塗料メーカーが低汚染塗料を開発時に実施する実験で一般的なものに、雨筋暴露試験という試験があります。これは、実際に塗料を塗った板を外に設置して外の環境による変化を観察する実験です。※動画のリンクが切れています。
こちらは、高耐候性であるフッ素塗料と共に6ヶ月間の経過を見た実験です。フッ素塗料の方には雨筋ができていますが、低汚染塗料には雨筋ができていません。
以上の実験結果から、低汚染塗料には汚れが付きにくいことがおわかり頂けたと思います。
3.低汚染塗料の施工事例
3-1.超低汚染リファイン(株式会社アステックペイント)
3-2.クリーンマイルドシリコン(エスケー化研株式会社)
3-3.ハイドロテクトカラーコートECO-EX(TOTO株式会社)
4.低汚染塗料の開発者へインタビュー
今回の実験に使用したアステックペイント社「超低汚染リファイン」の開発メンバーである、アステックペイント 技術開発本部 開発課 酒井 主任にインタビューを行いました。
4-1.汚れが付きにくい理由とは?
アステックペイント 技術開発本部 開発課 酒井 主任
-そもそも、なぜ汚れにくいのですか?
超低汚染リファインMFは、フッ素樹脂と無機成分を使用した低汚染塗料です。通常、フッ素樹脂は耐候性は高いのですが、静電気を帯びやすい性質を持っています。そして、静電気を帯びていると汚れが付きやすいという点がありました。
しかし、超低汚染リファインはフッ素樹脂の表面に無機成分を固着させることによって、電気を溜めにくくするため、汚れを寄せ付けにくくなっています。
もう一つの理由として、無機成分が水になじみやすい親水性という特徴を持っているため、汚れがついても水で洗い流してくれるという点があります。
フッ素塗料同等の耐候性を持ちながらも、フッ素樹脂の弱点であった汚れやすさを無機成分によってカバーしたということです。
-なぜ無機成分が入っていると電気を溜めにくいのでしょうか?
専門性が高くなるため、説明が難しい部分ですが、無機が持つ化学結合で親水基(OH)が電気を溜めにくい性質を持っているのが主な理由です。
-どのような汚れに強いのでしょうか?
砂や火山灰のような無機汚れにも強いですし、排ガスのような有機汚れと言われる油の混じった汚れにも強いです。
4-2.他社の低汚染塗料との違いは?
-光触媒塗料とはどのような点が違うのでしょうか?
光触媒による低汚染塗料は、太陽光があたって化学反応が起こり、汚れが分解されます。また他の低汚染塗料と同じように親水化によって汚れを洗い流すというのものですが、この超低汚染リファインは太陽光ではなく、空気中の水分によって塗膜が親水化するという点が異なります。
-セラミック配合の低汚染塗料とはどう違うのでしょうか?
塗膜の表面にセラミックが浮いてきて、樹脂と分離して表面がセラミックコーティングされることで汚れが落ちるタイプの低汚染塗料がありますが、このタイプは経年で表面が劣化するにつれて低汚染効果が薄れてしまう恐れがあります。対して、超低汚染リファインは低汚染成分が塗膜内部でも結合しているので、塗膜の表面が経年で劣化が進行しても親水化を保つことができます。
4-3.低汚染塗料を使用する際に注意することは?
低汚染塗料全般的な話でいうと、雨によって汚れが洗い流されるという性質は、もちろん雨が当たらないと汚れが落ちません。ですので、雨が当たりにくい場所は注意が必要です。
ただし、低汚染塗料はもともと汚れが落ちやすいので、拭き取ればすぐに汚れは落ちます。
他には、施工時の注意として二液タイプのもの(現場で2種類の塗料を混ぜ合わせる必要があるもの)については、硬化剤の方に低汚染効果を発揮させる成分が含まれているケースが多いので、必ず2種類を十分に混合してから塗装するようにしてください。
まとめ
低汚染塗料が汚れにくいのは、汚れの原因となる静電気を帯びにくく、分子同士が細かく結合していることによって、汚れが付きにくいこと、汚れが付いてしまっても親水性という性質で汚れを雨水で洗い流すことによって綺麗な状態を長期間保つことができるということでした。
この記事を読んで、「どうして低汚染塗料が汚れにくいのか?」という疑問が解消されれば幸いです。