お住まいが海沿いにあると海風によって日々の暮らしで困る事もありますよね。例えば、車や自転車など金属製品が錆びやすい、洗濯物を取り込み忘れると潮風でべたべたしてしまう…そんな事はありませんか?それだけはなく、皆さんの住まいも日々、塩分を含んだ風や雨によって起こる、塩害で傷んでいるのです。
塩害とは塩分によって住居や構造物が害されることの総称です。たとえ波の届かない高台に住居があったとしても、海風によって塩分は周辺部へ散っていきます。海岸沿いから2キロメートルまでは海風によって塩害が起こる範囲と考えられていますが、強風時を考慮すれば8キロメートル付近まで塩は散っていくと考えてよいでしょう。
また、「うちはまだそんな症状がでていないからメンテナンスなどしなくても大丈夫」と思われている方もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。塩害には潜伏期というものが存在します。人間の体が潜伏期間を経てインフルエンザにかかるのと同じように、表面上はなんともない時期が存在するのです。その潜伏期のピークを越えると進展期、加速期と一気に塩害による劣化現象が進んでいきます。
特に塩害で劣化しやすいのが金属です。金属サイディングを使用した外壁、サッシや手すり、戸袋など住まいに使われる金属製の部分など、住まいには沢山の金属が使われています。塩害でお家をボロボロにしない為に必要なのは、劣化症状が表面化する前にメンテナンスすることです。今回は塩害が起こりやすい戸建て住宅の方へ向けて塗料でできるメンテナンス方法をご紹介します。
この記事を読めば、塩害で起きる劣化現象から塗料でできる対策まで、網羅的に知ることができます。ぜひ、今後のメンテナンスの参考にしてください。
1.塩害が起こるとどうなるか
塩害とは海水に含まれる塩分により建物や建築物が害される現象の総称です。住宅の塩害例として、金属サイディングの外壁や金属製の付帯部が錆びる、窯業系サイディングの傷みが早いなどが挙げられます。ここではご自分の家に塩害がおこっているのかを知り、放置するとどうなってしまうか見ていきます。
1-1.塩害が引き起こす住まいの初期劣化症状
ご自分の家で下記のような症状が発生しているのであれば塩害の初期症状が出始めていると考え、本格的なメンテナンスを検討すると良いでしょう。塩害によって特に被害が出やすいのは金属です。金属系サイディングの住まいの方、鉄部に錆が浮き始めた方は注意しましょう。
素材 | 劣化症状 | 劣化写真 | 説明 |
---|---|---|---|
金属系サイディング | 外壁面の錆 | 塗膜が劣化した金属系サイディングに塩分を含んだ雨水や風が当たると錆びてしまいます。ガルバリウム鋼板やアルミは錆びにくい素材ではありますが、塗料でコーティングされていないと次第に錆びていきます。 | |
窯業系サイディング・モルタルなど | 外壁面のチョーキング | 塩分を含んだ雨水が塗膜に付着し続けると、内陸の住まいより早く劣化が進行します。壁面の劣化の初期症状としてチョーキングという樹脂や顔料が粉状になり表面に浮いてきます。 | |
金属製の付帯部 | 金属部分の錆 | サッシや雨戸、戸袋などの鉄部に塗られた塗膜がはがれて塩分を含んだ風や雨が当たると鉄部に錆が発生します。 |
1-2.塩害を放置するとどうなるか
塩害の初期症状を「まだ大丈夫だろう」と甘くみていると最悪の場合、金属部を錆つかせ、穴があく事もあります。前述のとおり、塩害の症状は一気に表面化するものではなく、初期段階では中々気づけないものなのです。
画像出典:一社コンクリートメンテナンス協会
塩害が起こりやすい地域にお住まいがあるのなら、傷む前に早めにメンテナンスをするのが良いでしょう。ここでは、塩害の初期症状を放置するとどうなってしまうのか画像を見ながら解説します。
素材 | 放置すると起こる悪化した劣化症状 | 説明 |
---|---|---|
金属系サイディング | 金属系サイディングの錆が劣化すると、錆び始めた部分に更に塩分付着し腐食を進めます。最悪の場合、左記の写真のように取り替えるしかないほど、錆が進行する場合もあります。 | |
窯業系サイディング・モルタルなど | 前述の通り、沿岸部の家は内陸より劣化の進行が早く進みます。チョーキングなど初期劣化を放置すると最悪の場合、躯体に水が染み込み構造体を腐らせる恐れがあります。 | |
金属製の付帯部 | 左記の写真では鉄部に塗られている塗装が剥がれ、内部の金属が錆びてしまっています。金属の付帯部劣化を放置すると最悪、金属部に穴があき、取替えなどの処置が必要になります。 |
初期の劣化症状を放置すると上記の様な劣化が起こる危険性があります。住まいを長く保たせたいならば早めのメンテナンスによって塩害の影響を防ぐことが大切です。塩害を予防するには外壁、屋根、付帯部が塗料でコーティングされている事が重要です。また、コーティングする塗料もどんなものでも良いというわけではなく、塩分や紫外線どの自然環境に対応できる高耐久のものが望ましいです。
2.外壁面の塩害を塗料で防ぐためのポイント
2-1.耐久性の高い塗料がおすすめ
塩害を塗料でメンテナンスする場合におすすめなのが、フッ素塗料や変性無機塗料です。これらの塗料はもともと塗膜を形成する樹脂が緻密で細かいので、紫外線や塩害といった自然環境が及ぼすものに他の塗料に比べて強いのです。耐久性も他の塗料に比べて高いのですが、その分価格も比例して高い傾向にあります。
次に、沿岸部で塩害の影響を受けやすい住宅におすすめのフッ素塗料と変性無機塗料について詳しくご紹介します。
フッ素塗料とは
フッ素塗料とは、ホタル石という天然石を使用し、フッ化カルシウムを主成分とした塗料です。汚れを寄せ付けない、酸性雨に強い、紫外線破壊を受けにくいといった性質をもっています。
身近な例ですと、テフロン加工が施されたフライパンです。テフロン加工されたフライパンも表面にフッ素加工が施されています。テフロン加工のフライパンに油をたらすと、弾いて玉のように表面を転がるのがイメージできるでしょうか?それは、フッ素の持っている汚れを寄せ付けないという性質の為です。それが外壁面でおこなわれるのがフッ素塗料なのです。
変性無機塗料とは
変性無機塗料とは、セラミックやケイ素などの無機物を主成分としており、寿命が長く、他の塗料と比較しても高い耐候性を誇る塗料です。無機物は紫外線などにさらされても劣化しにくいという性質を持っており、この性質を塗料に取り入れたことで15年以上の耐候性を実現しています。外装用塗料の課題であった「紫外線による塗膜の劣化」を解決するために開発されたという背景があります。
2-2.外壁面の塩害を防ぐためにおすすめな塗料
ここでは、おすすめのフッ素塗料と無機塗料のご紹介をします。
おすすめフッ素塗料はこれ!
商品名:アレスアクアフッソⅡ(関西ペイント)
規格:水性系、外壁用上塗材 備考:耐候性と低汚染性を併せ持った塗料。 |
商品名:超低汚染リファインMF-IR(アステックペイント) 規格:水性系2液型無機成分配合フッ素塗料 備考:無機成分を配合したことにより従来のフッ素塗料を凌ぐ超耐候性を併せ持つ。 詳しく知りたい方はこちら:超低汚染塗料 リファインシリーズとは |
おすすめ変性無機塗料はこれ!
商品名:無機ハイブリットクリヤーJY(アステックペイント) 規格:水性系、弱溶剤ともに有り、外壁用上塗材(クリヤー仕上げ) 備考:期待耐用年数20年以上。耐候性に特化したクリヤー塗料。 |
商品名:アプラウドシェラスターNEO(日本ペイント)
規格:水性系、外壁用上塗材 備考:有機塗料の持つ弾力性も併せ持っている為、従来の無機塗料では出来なかった高弾性使用の上塗りとして使用可能。 |
いかがでしょうか?塩害の起こりやすい住宅は塩分を壁面に残さないようにする事が重要です。その為、コーティング効果に優れたフッ素や変性無機といった耐候性の良い塗料がおすすめです。
3.金属製の付帯部の塩害を塗料で防ぐためのポイント
住まいにはサッシや雨戸、戸袋といったような金属でできた付帯部が数多くあります。もちろん金属でできているので、コーティングしている塗料が経年劣化によって剥がれたり防水性を失っていけば内部の金属は錆びてしまいます。
金属製の付帯部にオススメな塗料は上記と同じくフッ素や無機といった耐久性の高い塗料です。外壁面には高耐久の塗料、付帯部には耐久性に劣る塗料を使うと、付帯部だけ先に傷んでしまう事があります。塩害が起こりやすい地域では付帯部にも高耐久の塗料を使うのが良いでしょう。
3-1.金属製の付帯部の塩害を防ぐのにオススメな塗料
商品名:マックスシールド1500F-JY(アステックペイント) 規格:弱溶剤型二液性フッ素塗料 備考:耐候性や低汚染性に優れた、弱溶剤形のフッ素塗料。外壁面、付帯部どちらにも塗布することができる多用途塗料。 |
商品名:クリーンマイルドフッ素(エスケー化研) 規格:弱溶剤型フッ素塗料 備考:セラミック複合の特殊技術で超低汚染の塗料。外壁面、付帯部どちらにも塗布することができる。 |
塗料は種類によって価格も耐久性も様々です。すでに塩害のメンテナンスの為に塗替えを検討されている方は付帯部の塗料にも気をつけるといいでしょう。
4.塩害のメンテナンスに失敗しない為に気をつけるポイント
4-1.ランニングコストの良い塗料を選ぼう!
塗り替え工事は決して安いものではありません。時に、工事金額を安くする事に執着してしまいがちです。しかし、1回の工事を安くする事ばかり考えていると、結果的に高い買い物になってしまう事があります。
上記の図を見ると、Bさんは1回ずつの工事金額はAさんより安いですが、結果的にはAさんの方がお得です。このような事にならないよう、住まいの塗り替えは長期的な視点で考える事が良いでしょう。特に、沿岸部の住まいは内陸地の住宅より傷みが進行しやすいです。その分、メンテナンスの回数も必然的に多くなるでしょう。「工事の回数が多くなるから塗料も安いもの、業者も妥協する」ではなく、長期的な視野でランニングコストの良い塗料や施工業者を選んでください。
4-2.基準が明確な安心の業者を選ぼう
良い塗料を選ぶのも大事な事ですが、工事を請負う業者を選ぶ事も大切です。たとえ高耐久の良い塗料を使ったとしても塗り方が悪いと塗料の持つ効果は発揮されません。本来の効果が発揮されなければ、海風や強い紫外線に晒される沿岸部の住まいをしっかりと守る事はできないでしょう。
下の図は手抜きの工事ときちんとした工事で塗られた塗膜の比較です。仕上がりは同じようですが、断面を見ると手抜き工事は塗料が薄く塗られています。こうなると、塗料が持つ本来の効果が発揮されず、短期間で傷んでしまい、塩害を防ぐ事はできません。
では、どんな業者に頼むべきか、それは、住まいの診断をきちんとおこなってくれる業者を選ぶことです。
住まいの傷み具合によって必要な塗料は変わってきます。正確な診断をおこなわなければ正しい判断ができないはずです。ですが、業者の診断が妥当なものか中々分からないですよね。下記が業者の良し悪しを見分ける判断基準です。参考にしてください。
□ 資格を持った診断のプロが診断してくれるか □診断を目視ではなく、ツールを使って実施しているか □ 診断結果は口頭ではなく、書面で報告してくれるか |
当メディアを運営するプロタイムズでも無料で建物診断を実施しております。建物診断については次の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひご覧ください。
まとめ
この記事では沿岸部にお住まいで、塩害に悩んでいる方に向けて対処法をお伝えしました。塩害は表面的にはまだ大丈夫なように見えても、じわじわと劣化が進行していくものなのです。塩害が引き起こす劣化は金属部分では錆。さらにひどくなれば、穴あきまで進んでいきます。また、セメントが主成分のサイディングやモルタルも海風によって他の地域より早く劣化が進みます。その為、「傷んでからメンテンナンスしよう」ではなく、「傷む前にメンテナンスをしよう」という意識を持つ事が重要です。
大切な家に長く住み続ける為にも、まずはご自分の家の塩害の進行度合いを確認し、長期的な視点で塗り替えを検討していきましょう。